3. いつまでも

 

 

  新聞も朝刊しか読まない、昨日の情報は一切仕入れない、
何事も最新のものを好む「悠悟」と

古いものも新しいものも興味がなく、同時に古いものも新しいものも大切にする「彩織」。


ふたりに子供が出来た。

子供はせっかちに育ち、二十歳になった時にせっかちに結婚相手を連れてきた。

相手はどう考えても申し分のない素晴らしい人間で、(肩書き的な意味ではなく人間としてのオーラ的な)


じゃあ折りを見て結婚ということでーというような流れになった。

悠悟と彩織の子供の名前は「悠(ゆう)」。

名前だけみたらじっくりのんびりという感じなのだが・・・。


性質、気質はせっかちで口調も何もかも父親に似ていた。

悠悟が「ふたり」である。

どれだけ大変か、想像するに余りあるものがある。


悠の結婚相手は「真織」と言った。

偶然であるが、彩織、に似ている。


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彩織はため息が止まらなかった。

泣きそうにもなったし、、怒りで暴れだしそうにもなった。

(なんだ?)


悠はたいした人間で、巨万の富を築いた。

あまり本人は興味はないようだったが、家は豪華にならざるを得ない。
(やってあげたのは全部悠悟)

真織「お義母さん、スイカ切りましたけど」

涙ぐみそうな顔を隠し、「いいわ・・・」と言って奥に引っ込む彩織。


優しい真織は、彩織の身を案じた。


チリリ~ン チリリ~ン

時期は夏。

鈴虫が鳴き、、風鈴が風と共に美しく踊る季節である。


先程の光景を思い出す。

いつものように悠悟になついている孫たち。

彩織が行っても反応が薄い。

空気のように扱っている。


悠悟「彩織?」

後ろから声が掛かる。

「(また見つかった)」

広いのに、すぐに見つけられる彩織。

彩織がいなくなるとポインター並みの嗅覚で彩織を探し当てるのだ。

(ポインター=イヌの嗅覚は人間の一万倍と言われているが、ポインターは更に一桁上を行く)


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ドドーン パーン

パーン ドーン

ドドドーン


ここは丹洲田(にすた)峡谷。

「花火でも行こう」

何かを察した悠悟が「面倒臭いわ・・・」という顔をしている彩織を無視してここに連れてきたのだ。


あの子たちは悠悟の方が好きなのね。

ブーたれながら彩織は言う。

生まれてから、一度も「おばあちゃん」と甘えてくれたことはない。
一度も、、

しょぼ~ん

いやぁ、キレイな花火だねぇ、と上機嫌で花火観賞をしている悠悟。


うわ~ん

うわ~んうわ~んうわ~ん

悠と真織には三人子供がいる。


家では阿鼻叫喚の騒ぎになっていた。

真織「すぐ戻ってくるわ。きっとお義母、、彩織さんと花火を観に行っているのよ」

孫A「かおりさんて誰?じいちゃんどこ~~ゆうごさ~~~ん」ずびずび

孫B「花火と僕とどっちが大切なのぉ」


手の付けられない状態である。


悠悟は、好かれるのもいいけど、そうすると今度はそれに応える責任も負わないといけない。
「だから最初から興味持たれないのもいいことさ」

と言った。

・・・

確かに。

なるほど・・・と思う彩織。


彩織は悠悟と結婚したばかりの頃、

結婚当初は良かったのだが、少し経って「気持ちに応えるのが面倒臭い」とそっぽを向かれてしまったのだ。

まぁそうよね、と分かっていた彩織は悠悟の邪魔をせずに自分の好きなように過ごした。

水族館巡り、数少ない友人たちとの映画・ミュージカル鑑賞。
そして大好きな野球観戦。

好きなように過ごし、パンフレットをず~っと何度も何度も繰り返し見たりしていた。


悠悟の単身赴任が決まった後、

赴任先から「来て」と電話で言われてたが「忙しい」と言って最初は行かなかった。

・・・

或る時偶然結婚式を見た。

教会から出て皆に祝福されている新郎新婦。


ぶお~ん(飛行機)


「悠悟」!
ガチャッ

悠悟が暮らしているという部屋のドアを開けた。


黒い垂れ幕が掛かっていた。



垂れ幕をまくり上げる。

「悲しみ」「絶望」「この世の果て」「ありとあらゆる苦痛」

この四つの文字が縦書きに書いてある白い垂れ幕。


彩織「(四つある、、「四」は不吉ね・・・)」

まずこの異様な風景に突っ込めというところだが・・・。

奥は真っ暗。


何故か落ち着いた気持ちで先を歩く彩織。


気付いたら、すぐ傍に重病人みたく苦しそうにベッドで寝ている悠悟の姿があった。

悠悟は彩織が来た30分後に全回復してテレビを見出した。

「長く居られると気持ちに応えるのが面倒」

いないと重病人になって「ありとあらゆる苦痛」なんて文字、浮かび上がらせちゃうくせに・・・
彩織は呆れた。

(前回参照だが、悠悟は超能力者)


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気持ちに応えるのは面倒。

悠悟は花火を観ながら言う。

「でも、」

彩織はふーんと思う。

『君は特別だよ』

彩織は目を点にした。



あっ

彩織が立ち上がる。

「また、超能力見せてよ!」

キラキラした目だ。(祖母の威厳ゼロ)


やんや やんや

いつの日か(前回)出したネコ忍者たちを大量に出し、

大掛かりなキャンプファイアーの周りをぐるぐる回らせ、躍らせる。


「夏はやっぱりキャンプファイアーよねっ」

花火、キャンプファイアー、もうおじいちゃんおばあちゃんなのに、微妙にロマンチックな夏を過ごしたふたりであった。

 

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