4. かんじょう

 

 

  ぐっはぁぁ・・・。

まばゆい明かり。

・・・

「(庭もすごかったけど。外観もすごかったけど。

中もすごい。・・・恐いよう)」


只野安曇(ただのあづみ)。

そしてクラスメートの椛山洋子(かばやまようこ)。


ふたりはひょんなことから意気投合(ではないが・・・)し、

洋子が安曇の家(只野邸と呼ぶべきか・・・)に来たのだった。


スリッパ(これも高級そう)を履き、スタスタと廊下を歩く。


何で廊下に銅像がいくつもある訳、、、


安曇「寒い?全室暖房つけたけど」


洋子「い、いえ。寒くない、です!」



長い道(道・・・)を歩き、ようやく安曇の自室に到着した。

「あの、掃除とか、大変そう」
思わずつぶやく洋子。


いつも使用人たちがやるからな。

任せっきりも良くは無いが・・・


カラッとした空虚な声で安曇は言う。



どう、考えても、自室自体、、が誰かの家そのもの、というくらいでかい。

何だか腹が立ってくる洋子。

「よよよよよよ世の中には、、、飢えて苦しんでいる人もいるのにっ

こここここういう、、、贅沢な暮らしをする人もいるる、、、ってことが何かっ・・・」


洋子はいつもこんな調子だ。

恋愛感情もないのに、安曇の前では緊張してこういう口調になってしまう。


「俺の家じゃない。両親の家だ

俺は関係ない」

あっさり答える安曇。


「こここここんな暮らしをして、、あ、アパート暮らしなんてしたらきっと、、」


した。

さえぎって答える安曇。


★金持ちだったら普通は妬まれたり目立つ
★なのに自分は全然さっぱり目立たない
★アパート暮らしとか貧乏系だったらどうだろうと思って暮らしてみた
★すごく気楽で自分に合った
★でも状況は変わらなかった


洋子「そ、それで半年もしないまま両親に戻された、、のね・・・」

安曇「高校一年の時だ。去年になるな」


安曇は、特殊な能力で 人間を猿だとか猿人とか原人とか旧人(ネアンデルタール人)に見えてしまう、という複雑な事情(どころの騒ぎじゃない)を抱えている。

たまに、普通の人間(真人間と呼称)を発見することもあり、その中のひとりが「椛山洋子」だった。


安曇は存在感が極力薄く、逆に洋子は存在感が半端なかった。


ふたりが一緒にいるところを学校で見られ、散々な目に遭ったので(過去参照)

こうして「俺ん家来ないか」と安曇に誘われ、洋子が来た、、という訳である。


コーヒーを飲みながら、「ご、ごめんね」と謝る洋子。

たかが屋上で一緒にお昼を食べる、ってだけだったのに。
おおごとになっちゃって・・・。


コーヒーの渦巻きを見つめる(久し振りにクリープを入れた)
不思議な感覚だ。

「(ハイッ、て何かを、、押し付けた、、?ような記憶が。恐い。何だろう)」


「それより、大事な話があるんだ」

安曇が言った。


洋子が顔を上げる。

何だろう、、と思う。

「(もう近付くなとか?)」高速で考えてしまう。


「真人間は、、淘汰される」
安曇が苦渋に満ちた顔で言った。


「えっ」

高い声が出てしまう。


少数派はいつだって弱者だ。

世の中に「真人間」は極めて少ない。

「君もいつかは・・・」


と、

「淘汰、って 死ぬの?子孫が残せないとか?」


「そうだ」

悲しそうな顔で下を向きながら言う安曇。


「ここここここ子供が出来ない、、不妊で苦しむとか?」


「事故に遭う可能性もある。病気の可能性も否めない」


・・・

「(まばたきをいっぱいしている)それなら、それでいいわ」

それが運命の意思なら、、それはそれでいい」


安曇「君ならそう言うと思ってた」


うん。力なく答える洋子。


安曇「幸せになって欲しい。誰よりも。

真人間という素晴らしい人種としてこの世に生を受けたのだから、、
幸せになって欲しいんだ」


クッ、、と洋子が唇をかむ。

・・・

目を瞑る洋子。

沈黙も、、ふたりの間には何の緊張も生み出さない。

・・・

安曇君。

洋子が凛として顔を上げた。


淘汰なんてされないよ。

地球が宇宙に見放されて爆発しても。

「私は生きてみせるわ」


安曇は驚いた顔で洋子を見た。


「(・・・どこかで聴いた音楽。どこかで観た風景。どこかで踊っていた少年)」


頭に花の輪を乗せながら、薄い布の服を着て踊っていた。
5歳になって、人間を「猿、猿人、原人、旧人」にしか見ることが出来なくなった、、

前、に どこかで見た。人を人として見ることが出来ていた5歳以前。

最後の美しい記憶。


安曇君?

安曇君どうしたの??

駆け寄る洋子。


十年以上流していなかった涙。

感情が確かにある証。

「安曇君!どうしたの!」

洋子は泣いている安曇を、、ずっとずっと抱き締めていた。

 



 

 

 

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