1. 起
靖子「異世界の扉って本当にある気がする」 喜多豊(きたとよ)高校。 下校時の会話である。 夏だからかオカルト話が自然と盛り上がるのだ。 千花「多分作り話よねー 昔は私も良くだまされたけど」 ------------------------------------------------------- 「木原先輩、週末、空いてます?」 木原悟(きはらさとる)。賢木千花(さかきちか)の先輩である。 ふたりは空手部の先輩後輩で、とても仲が良かった。 部活で一緒にいるのはもちろん、校舎の外で会えば自然と寄り添う、といった具合である。 しかし特に付き合っているなどはない。 悟は「うっ」と厭な予感がして 「いや、週末は予定が」と言った。 ニコッと笑って千花が言った。 「色々、見ていることとか知りたk、、」 ・・・ 悟「・・・行こう」 くるっと振り向く千花。(くるくる歩いていた) ------------------------------------------------------- 悟は変態であった。 もちろん、普通の意味ではない。 (どういう意味・・・) 千花を見ているのである。いつも。 千花は気にしないようにしていたが、 とうとう我慢が出来なくなった。 「何でそういうことするの!やりすぎでしょうが!」 とカンカンになってしまった。 しかし本人に聞くのは失礼だし、、どうしたものかと思案に暮れていた。 罠を仕掛けていたりしたのだが、ことごとくひっかかる。 さすがにもう懲りただろうと思っても懲りた様子が無かった。 夕暮れ時のファミリー・レストラン。 千花「普通だったら今は練習してる頃ですよね(部活)」 腕を組んで言う千花。 悟は静かな顔をして黙っていた。 千花「何でやめないんでしょう」 悟「見ていない」 周りの人間たちは「高レベルな言い争いをしている・・・」と勝手に思って声を小さめに話した。 千花「何のつもりか分かりませんが。 やめてもらえませんか」 悟「見ていない、と言っている」 千花「・・・はい 良く、分かりました」 ガタッ 千花は立ち上がった。 パサッとお札(おさつ)を置き、言った。 「せ、正攻法でっ、、来て欲しいです」 ------------------------------------------------------- 秀一「・・・で。正攻法で未だ行けないと」 昼食時である。 悟「・・・」 栄吉「いーじゃん行っちゃって。 男らしく行っちゃいなよ」 悟は今までず~っと千花が様々な男子と付き合うのを見てきた。 その都度、「分かってないな」と千花を莫迦にしてきた。 悟「(・・・何だか面倒臭いな)」 悟は全てが面倒臭くなってきた。 自分が千花とどうこう、という状況を考えていなかったのである。 千花の情報を得、千花の信頼を勝ち取り、千花の兄的存在になる。 それのための努力は惜しまなかった。 悟「(見事達成した。詰めが甘かったか・・・)」 悟は頭が痛くなってきた。 正攻法、という言葉。 「(深い意味ではないだろう)」とぼんやり思う悟。 イケメンな不良、栄吉が聞いた。 「なんで付き合わないの?おまえら仲良いじゃん」 悟は病的な臆病者であった。 秀一「賢木さん。また誰かに取られちゃうぜ」 悟は取られ慣れしている。 どうせ千花は根が真面目だから不健全なことは絶対にしない。 だから安心だと100%思っていた。 悟「あいつはただの後輩。何とも思っていない」 栄吉「おまえさ、根が暗いよな(汗)」 ・・・ 靖子「おーっ、あの丘の。木原先輩じゃん?」 結衣「あ、ほんとだ」 千花は一瞥し、くるっと背を向けた。 「あんな根暗な人嫌い」 目を点にする女子ふたり。 「・・・護符とか作って祈ってそう。 根暗だから!」 ぶあっくしょっ 丘の上では悟が盛大なくしゃみをしていた。 |